これまでたくさんのコーチのさまざまな理論や教え方を紹介してきた私がこんなことを言うとおかしく聞こえるかもしれないが、個人的には「この理論が絶対に正しい!」と言うものはないと思っている。ゴルファーのレベルはさまざまだし、身体的な能力も人によって異なるからだ。

 だから私はその時々に合った解決方法を知っておくため、時間を見つけてはいろいろなところに行き、たくさんのコーチと会ってスイング理論や考え方を聞くことにしている。そんなことを繰り返しているうちにそれがライフワークの1つになった。

 基本的には欧米のコーチたちから話を聞くことが多いので、行く地域も偏るのだが、先日、ある機会から中国へ行くことになった。


●ひょんなことから中国に


 フィル・ケニオンというイギリス人のパッティングコーチがいる。現在世界ランク2位のローリー・マキロイや、先日惜しくもグリーンジャケットを逃したジャスティン・ローズ、さらにはヘンリク・ステンソンなどのパッティング指導を行う売れっ子コーチだ。昨年ケニオンのスタジオを訪れて指導を受けて以来、何度かPGAツアー会場で顔を合わせる機会があったのだが、その時に中国で2日間の指導者向けのワークショップを行うという話を聞いた。

 欧米のコーチがアジア圏でこうしたワークショップを開催することが近年増えてきたように思える。残念ながら日本ではあまりみられないが、ティーチングの土壌が醸成しつつある東南アジアなどでは、私もいくつか参加した経験がある。だが中国ではまだそれほど数は多くないと聞く。

 ともあれ私は、世界トップクラスのパッティング理論に触れるべく、上海を目指した。

 私にとって中国は3回目の訪問だ。深センにあるデビッド・レッドベターのアカデミーを訪れたり、北京にゴルフ展示会の取材で訪れたことがある。その際はいずれもガイドを付けての訪中だったが、今回は初めての”一人旅”だ。

 目指すは上海浦東国際空港から車で2時間以上の内陸にある、Shanghai Silport Golf Club。ゴルフ場の近くまで高速バスのようなものがあればと思い、空港のバスチケット販売係の女性に尋ねたのだが、まったく英語が通じない。それどころか大声で怒鳴られてしまい、すっかり疲弊。彼女の仕事の邪魔をしてしまったのだろうか。


●久しぶりに海外で不安にさいなまれる


 気を取り直して、バスを諦めタクシーを使って目的地を目指すことにした。タクシーでも英語が通じないため、事前に印刷したパンフレットを見せて、「ここに行きたい」とボディーラングエージで必死に伝える。スマートフォンの地図や翻訳などを活用できればよかったのだが、中国ではgoogleが使えないことをすっかり失念しており、ガイドブックで覚えた片言の中国語でなんとか伝えようとする。

 40代とおぼしき運転手の男性は、私の言葉を聞くとどこかに電話を始めた。しばらくするとスマートフォンタイプの携帯端末に何かを受信し、表示された地図を頼りに運転を始めた。

 上海の市街地であればバスや電車など交通網が整備されていて、容易に移動ができる。しかし郊外ともなるとバスや鉄道の選択肢がなくなった今、使える手段はタクシーのみだ。2時間ほどかなり不安な気持ちでタクシーに揺られる。市街地ほど整備されてない道を走り、外が田園風景に代わってきたころ、目的の昆山という小さな町に着いた。


●レベルアップを支える”コーチのコーチ”


 翌朝、ワークショップが行われるゴルフ場へ向かうためタクシーを呼ぼうとすると、50代くらいの全身ナイキのゴルフウエアを身にまとった白人が声をかけてきた。

 「お前もケニオンのワークショップに行くのか?」

 そうだと答えると、「俺も行くから一緒に乗れ」と半ば強引に彼が呼んでいたタクシーに連れ込まれた。

 彼はロレンゾ・ボジージオと言い、中国在住のイタリア人で中国人コーチを相手にティーチングの指導を行っているという。中国や東南アジアのようなゴルフ後進国では、ロレンゾのようなコーチに技術を教えるコーチは多い。国内で技術を学ぶ場所が限られているので、ティーチングの技術を持ったコーチを呼び寄せ、スイング理論などを体系的に学ぶのだ。こういったコーチの存在がその国の技術レベルの底上げを支えている。

 ワークショップには50人くらいの参加者がおり、そのうち2/3くらいが中国人、残り1/3が欧米人だった。欧米からの参加者は50代以上のベテランコーチが多かったのに対し、現地中国のコーチたちは20代の若手がほとんどで、今後急速にレベルアップするであろう中国のゴルフ界の一端に触れた気がした。ちなみに日本人は私のみである。

 そんなアウェーの中、ワークショップが始まった。


●15時間以上続く講義


 フィル・ケニオンの理論は、ハロルド・スウォッシュというパッティングコーチの教えをルーツとしている。パッティングの動きを細分化し、体系立てて考える事で、問題点をピンポイントに探し出すのが特徴だ。

 「ストローク」「ボールの転がり」「スピード」など7つの重要な要素があり、その一つ一つの項目の下にさらに細分化された項目が連なるという、ツリー状の理論体系だ。

 指導者向けのワークショップではこの項目の全てにおいて、その意味合いやチェックポイントを学ぶ。初日は朝9時から18時まで、2日目も9時から17時まで昼食以外はほとんどぶっ続けで行っていく。しかも大半が座学だ。自分のスイング理論や教え方が確立されているコーチは、得てして病的なまでにその研究に熱心であるが、その点ではケニオンも例に漏れず相当な「ゴルフオタクっぷり」であった。

 しかしそんな15時間以上に及ぶ講義でも、中国の若手コーチたちは終始熱心に聞き入り、ときに的確な質問を飛ばしていた。彼らの月給以上するであろうワークショップからなんとか元を取ろうとする熱気は、今まで参加してきた欧米のセミナーよりもはるかに熱が高いものだった。世界的に見ても中国人選手はフォン・シャンシャンや成長目覚ましいセキ・ユウティンなど、中国国外のツアーで活躍するプロがいるものの数でいうとまだまだ多くはない。しかしこういった若い指導者たちが、貪欲に知識を吸収しそれを将来有望なジュニアゴルファーに伝えていけば、近いうちに必ず韓国のような”ゴルフ強国”となるはずだ。

 中国の地方都市でゴルフ先進国の最新理論と、これから成長する国の若者たちの貪欲さに触れた、なんとも風変わりな旅であった。


 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/


(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)